法律事務所でAIを活用できる業務は、大きく分けて3つです。①訴状・準備書面・証拠説明書・財産目録といった書面の下書き、②メール・面談記録・PDFから必要な箇所を探す資料の横断検索、③事件の進捗と期日の管理。いずれも下書きと下ごしらえまでで、法的な判断と書面の最終確認は弁護士の仕事として残ります。弁護士法72条との関係では、弁護士本人がAIの出力結果を自ら精査・修正する使い方であれば、法務省のガイドライン上も通常は問題ないとされています(後述)。
書面の下書きを任せられる場面
時系列メモや面談の録音から、である調の訴状・準備書面の初稿を組み立てる、証拠説明書の号証を採番してドラフトを作る、通帳の写真から財産一覧表・遺産目録を作る、戸籍の束から相続関係図の下書きを作る、源泉徴収票から養育費・婚姻費用の月額を計算する——こうした書面作成は、紙・写真・PDF・手書きのままの資料から下書きを作る部分をAIに任せられます。
- 訴状・準備書面の初稿をAI事務員がドラフト
- 証拠説明書の書き方とドラフト作成
- 通帳から財産一覧表・遺産目録・証拠説明書を作成
- 時系列一覧表の作り方とドラフト作成
- 戸籍の束から相続関係図を作成
- 養育費・婚姻費用の算定表計算
書くのは初稿までで、争点の組み立てや最終的な文言の判断は弁護士が行う前提です。
資料を探す・突き合わせる場面
離婚の財産分与や相続の使途不明金調査で通帳2年分の資金移動を突き合わせる、LINEのスクリーンショット数百枚を時系列の一覧表に並べ直す、事務所内のPDF・Word・画像を横断して探す、「2年前の初回面談で何を聞いたか」に過去の案件記録から即答する——目で資料をたどって探す・突き合わせる作業がAIの領域です。
期日と進捗を管理する場面
期日呼出状や判決のスキャンから日時・場所・控訴期限を抽出してカレンダーに登録する、事件情報から進捗ボードを作り期限を事前に知らせる——期日簿とカレンダーの二重管理という事務所の作法はそのままに、抽出と登録の部分を任せられます。
どこからが弁護士の仕事として残るか — 弁護士法72条との関係
弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことを禁じています(弁護士法|e-Gov法令検索)。AIを使った契約書等のレビューがこの条文との関係でどう扱われるかについて、法務省は次のガイドラインを示しています。
本件サービスを弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって、当該弁護士又は弁護士法人がその業務として法律事務を行うに当たり、当該弁護士又は当該弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士が、本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用するときは、…通常、弁護士法第72条に違反しないと考えられる。
(法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」令和5年8月 6頁 4(1))。法務省は令和8年8月にこのガイドラインを補完する文書を公表していますが、72条の個別要件に関するこの解釈自体は変更されていません(同補完版 2頁)。
つまり、AIが出す下書きをそのまま提出するのではなく、弁護士自身が精査し必要な修正を加えて使う——AI事務員の設計を「引き受けないこと」として明記しているのもこのためです(AI事務員とは)。
導入前に確認しておくこと
依頼者の情報を含むプロンプトを生成AIサービスに入力する場面では、個人情報保護委員会が次のように注意喚起しています。
個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」令和5年6月2日)
依頼者情報を扱う以上、使うサービスが学習に利用しないことやデータの保管場所を確認する必要があります。Astarのセキュリティ面での対応は「なぜAstarはセキュアなのか」にまとめています。
よくある質問
法律事務所でAIを使うと、何を任せられますか。
書面の下書き(訴状・準備書面・証拠説明書・財産目録・相続関係図など)、事務所内の資料の横断検索、期日と進捗の管理の3つが中心です。法的な判断と書面の最終確認は弁護士が行います。
ChatGPTに資料を読み込ませるのと何が違いますか。
事務所の案件履歴・書式・過去の書面を覚えた状態で動くかどうかが違います。覚えた分だけ頼める仕事が増える仕組みについては「AI事務員とは」にまとめています。
AIに契約書等のレビューをさせると弁護士法72条に違反しませんか。
法務省のガイドラインは、弁護士本人がサービスの利用結果を踏まえて自ら審査対象を精査し、必要に応じて自ら修正する使い方であれば、通常は弁護士法72条に違反しないとしています。
導入前に何を確認すればよいですか。
依頼者の情報を入力する生成AIサービスについては、個人情報保護委員会が、入力した情報がAIの学習に利用されないことなどを事前に確認するよう注意喚起しています。セキュリティ面の詳細は「なぜAstarはセキュアなのか」にまとめています。